住所を置いている市町村役所にて「海外へ引っ越すので住民票を抜きたい」と言えば「海外転出届」を出すように言われる。この海外転出届を出して実際に海外に住めば住民税や保険料、年金の支払いは比較的容易に免れることができる。
また、ビザなどを取得して合法的に日本以外の国へと「主に」滞在していれば日本で税金が課せられることも基本的にはなくなる。ただ、納税義務の条件が少々複雑になるケースもあるのは知っておいた方が良いだろう。「183日以上海外に滞在すれば日本で課税されない」といった単純なものではない。
この記事では日本の税金が課せられない条件を知りたい人に向け
▶ 海外転出届を出してからの住民税と社会保険料、年金に関する支払義務
▶ 海外に住む人の所得税、個人事業税、消費税における支払義務
から
▶ 日本での課税を免れることで生じる「デメリット」
についてまで詳しく述べていきたいと思う。
海外転出届を出してからの住民税と社会保険料、年金に関する支払義務
海外転出届を出して海外に住むと、日本で収入があっても
1.住民税
2.国民健康保険料
3.年金
の支払義務が基本的に無くなる。日本に住所を持たない、住んでいないのである意味当然だろう。ただし、支払義務が無くなる時期には注意した方が良い。
住民税の支払義務
海外転出届を出すと、翌年度から住民税の支払義務が無くなる。たとえば、2018年の間に海外転出届を出せば、翌年の2019年度からは住民税の支払い義務が無くなる。気をつけなければならないのはあくまでも2019年「度」からという点である。
住民税は通常4回に分けて支払をしなければならず、大阪市に住民票を置いていた場合は、2018年6月、8月、10月に加えて、翌年2019年の1月期までの4回は住民税を払う必要がある。したがって、2018年度中に住民票を抜けば、2019年6月からの住民税支払が無くなることになる。つまり、2019年1月期の住民税は支払う必要がある。
住民税も年収の約10%が徴収される。海外に住むだけで、この額だけでも免れるのは大きいだろう。年収が数千万円レベルになれば、住民税を払いたくないという理由だけで海外転出届を出している人もいる。
注意しなければならないのは、住民税の支払義務は海外転出届だけではなく、居住所の保有期間が1年未満の個人とされている点である。厳密には1年ではなく183日間とされ(183日ルール)、住民票がなくとも、日本に183日以上滞在していることが確認されれば住民税が課せられることになる。
国民健康保険料の支払義務
国民健康保険料については海外転出届を出した翌月分から支払う必要性が無くなる。もちろん、国民健康保険が無くなれば日本の病院における医療費負担は3割から10割になる。また、高額療養費制度、海外療養費制度などの利用もできなくなる。
民間の保険に加入すれば、海外の病院も無料で受診できる。それなりの都市にある病院なら日本語の通訳も用意されているし、日本並みの設備が整っているところもある。
住民税や国民健康保険料を支払いたくないという理由で住民票を抜いている人は海外旅行保険でも良いだろう。海外旅行保険なら無料で使えるものもある。

年金の支払義務
年金については海外転出届を出すと義務ではなく任意加入になる。したがって、払うか払わないかを将来を踏まえて決められる。
もちろん、任意加入によって支払期間が短くなれば将来受け取れる年金の額は減るし、受け取れないこともある。
また、加入をやめればiDeCo(イデコ)といった積立て制度も使えなくなる。
海外に住む人の所得税、個人事業税、消費税における支払義務
住民税は海外転出届を出し、日本への滞在が182日以下なら支払義務も無くなる。では、それ以外の税金についてはどうだろうか?
ここでは非居住者かどうかが大きなポイントになる。
非居住者とは?
非居住者は「居住者以外の個人」と定義されている。税金上、非居住者になれば税金を支払う必要が無くなる。
非居住者になるポイントとしては183日ルールと呼ばれるものが有名である。183日以上海外にいれば、日本の非居住者となるというものだ。しかし、183日以上海外にいれば必ず非居住者になれるわけではない。
この居住者以外の個人は
1.日本国内に「住所」を有しない者
かつ
2.現在まで引き続いて1年以上国内に「居所」を有しない者
とされている。くわえて、
3.国外に一定の職業を有することになった者
で、その契約等で国外での居住が1年未満の場合を除き、国外での居住の日から非居住者と推定して取り扱われる。
所得税の支払義務
日本の所得税は、居住者に対して全世界で得た所得に課せられる。つまり、世界のどこで稼いでもその所得は日本において所得税の課税対象となり、申告・納税の義務が生じる。ただ、居住者に対してとあるので、非居住者となれば、これら義務を負うこともない。
所得税上、居住者と非居住者を決める重要なポイントとしては「住所」と「居所」になる。
「住所」については所得税法基本通達2-1に「人の生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは、客観的事実によって判定する」とあり、住所の概念は日本の民法上の住所の概念を借用しています(民法22条)。
また、民法上の住所の概念について「客観的な事実、すなわち住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他親族を有するか否か、資産の所在等に基づき判定するのが相当(最高裁昭和63年7月15日判決)」とされており、①住居、②職業、③国内において生計を一にする配偶者その他親族を有するか否か、④資産の所在等の4つの要素に基づく総合判定になっています。
183日以上海外にいるにもかかわらず、非居住者と認められなかった(日本の居住者とされた)判例としては
1.1年間の滞在日数が日本171日、、マレーシア55日、香港44日、アメリカ39日、ヨーロッパ23日、その他
となっており
2.日本の自宅には配偶者がそのまま居住
していたケースがある。
このケースでは、裁判所は日本に納税義務のある居住者と判断している。日本に一番多く滞在(171日)しており、配偶者がそのまま日本で生活しており、本拠が日本であるとみなされたからだ。183日以上海外にいても、日本が生活の本拠と判断されれば所得税の支払義務が生じることもあるのは知っておくべきだ。
海外の国での課税を望むなら、その国が生活の本拠とみなされるよう現地でビザを取得し、日本にいる期間以上の日数を合法的に滞在する必要があるだろう。
個人事業税の支払義務
事業税は個人事業主が支払わなければならない税金である。290万円以上の所得に対して3~5%課税されるので、所得が290万円以下なら支払う必要がない。
海外に住む人に対して、事業税が課せられるかどうかも「所得税における非居住者かどうか」で決定される。非居住者であることに加えて、国内に事務所・事業所とみなされる住所や居所を持たなければ、事業税が課せられることは基本的には無い。
消費税の支払義務
消費税は課税売上高が1000万円超の事業者に課せられる税金である。消費税は利益ではなく、売上の8%、2019年10月からは10%に課せられる税金である。
消費税については所得税法上の非居住者であっても
国内で課税資産の譲渡等となる人的役務の提供又は人的役務提供事業(注2)(以下、これらを合わせて「人的役務の提供等」という。)を行い、基準期間(課税期間の前々年)における課税売上高が1000万円超である場合には、消費税の納税義務者となる
との判断がなされている。
つまり、課税売上高が1000万円以上であることはもちろん、「人的役務の提供等」があるかどうかが大きな判断基準となる。
人的役務の提供等としては、職業運動家、芸能人等への報酬が例としてあげられる。
日本での課税を免れることで生じる「デメリット」
海外で税金を払うことにより生じるデメリットとしては
1.日本を「主な」滞在先にできなくなる
2.各種控除やふるさと納税制度が利用できなくなる
3.高額医療費制度、海外療養費制度の利用及び質の高い最適な治療を受けられなくなる可能性がある
以上の点があげられる。他にも子供がいる家庭では教育をどこで受けさせるべきか?といった問題も生じる。
海外では現地の言葉を話せなければコミュニケーション上の問題も生じるし、外国人として暮らすのは手続き上様々な面倒があることも覚悟しておかなければならないだろう。
主なデメリットについて、下記で詳しく紹介していく。
1.日本を「主な」滞在先にできなくなる
日本での課税を避けるためには日本へ「主に」滞在していると判断されてはいけない。したがって、日本よりも住むことのメリットが大きい主な滞在国(海外の国)を見つけなければならない。
日本は食事も美味しいし、全てにおいてサービスのクオリティは高い。今では食事も安くて美味しい国として世界でも認知されつつある。
これで1980円でご飯おかわりし放題とか、控えめに言って生まれてきてよかったレベル🤗🤗🤗 pic.twitter.com/VWBjr1ax4l
— いのまスパム (@inomavtec) October 18, 2018
サービスを受ける側として住むなら非常に快適な国である。この国で過ごす時間を少なくしなければならないのは日本で育った日本人の多くにとってはデメリットになるはずだ。
2.各種控除やふるさと納税制度が利用できなくなる
日本では税金の負担が大きくなる人向けに様々な控除だったり、ふるさと納税といった制度がある。こうした制度は事業所得だけでなく、給与所得がある人でも受けれる。
これら制度を利用すれば最大で計417.6万円以上の額を控除できる(ふるさと納税には上限がないため「以上」とする)。詳しくは下記記事を参考に。

支払うべき税金の減少額は所得にもよるが2割から5割程度となる。したがって、417.6万円控除すれば84万円から209万円程度も支払うべき税金が減ることを意味する。
こういった控除があるので、中流階級までなら支払う税金を減らすために海外移住する必要も無いだろう。
3.高額医療費制度、海外療養費制度の利用および質の高い最適な治療を受けられなくなる可能性がある
非居住者になるには海外転出届を出す必要があり、国民健康保険への加入もできなくなる。海外でも民間保険に加入することで自己負担無しに病院で治療を受けられる。ただ、欧米では保険料が非常に高く、新興国では日本ほど満足の行く治療を受けられない。
日本ではいくら所得が大きくとも、国民健康保険料などの社会保障費は年77万円までである。また、国民健康保険に加入していれば高額医療費制度、海外療養費制度の利用もできる。
高額医療費制度では高額な治療費における自己負担額が決められており、治療費を払えない人に向けた無利子の貸付制度もある。
日本の病院は設備や人材も世界トップクラスに充実している。海外よりも負担が少なく、質の高い治療を受けられるのだ。
加えて、新興国では救急救命体制が整っていない。したがって、緊急時における死亡や障害のリスクは日本以上に高くなる。

治療も現地で受けることを前提に考えなければならない。こうした日本の公的な保険制度を利用できないのも大きなデメリットになるだろう。
海外移住の方法は国によって異なる。タイへ合法的に移住する方法を知りたい人は下記記事も参考に。
